オメガやロレックスをはじめとする高級機械式時計は、数多くの精密なパーツが噛み合うことで時を刻んでいます。私たち技術者は日々キズミ(ルーペ)を覗きながらその繊細な世界と向き合っていますが、お客様から「最近、時計が以前よりも遅れるようになった気がする」というご相談をいただくことがよくあります。
今回は、時計の「遅れ」が生じたサインが意味する重要なメッセージについてお話しします。
新品の時計やオーバーホール(分解掃除)を終えたばかりの時計をお返しする際、私たち技術者は「少し進み気味(プラス傾向)」に精度を調整しています。時計が「遅れる」よりも「進む」方が圧倒的に使い勝手が良いからです。
機械式時計は1日で数秒から年代物の時計になると3-40秒程度の誤差が生まれます。その上、重力の影響で時計が縦になっているか水平になっているかでも(姿勢差といいます)精度は変わってきます。それを踏まえて当店では基本的にどの姿勢でも進みになるように調整しております。特に当店を多くご利用いただくビジネスパーソンの方々にとっては遅れては困るものだからです。
なぜ時計が遅れるようになってしまうのか?
では、なぜ「進み気味」だったはずの時計が以前よりも遅れるようになってしまうのでしょうか。その具体的な原因は主に「潤滑油の劣化」にあります。
機械式時計の内部では歯車などの摩擦を減らすために特殊なオイルが差されています。しかし、時間の経過とともにこのオイルは少しずつ乾いたり、汚れてドロドロになったり、固化してしまいます。
潤滑油が劣化するとパーツ同士の摩擦抵抗が増えてエネルギーロスが起こり、時計の心臓部である「テンプ」の振りが弱くなります。これが多くの場合、時計が徐々に遅れはじめる原因となります(極端に振りが悪くなると逆に進むこともあります)。
「動いているから大丈夫」に潜むリスク
「少し遅れているけれど、まだ問題なく動いているからそのままでいいや」
そう思われる方も多いかもしれません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。少し遅れている状態であっても時計そのものは健気に稼働し続けることも多いです。ところがこの状態を放置するとパーツの摩耗が進行しダメージが深刻化するという悪循環に陥ります。
時計が遅れ始めたら、それは時計が発している「そろそろお手入れをしてほしい」というサインです。
「まだ動くから」と限界まで使い込んでしまうと、オーバーホールの際に多くのパーツを新品に交換しなければならなくなり修理費用がかさんでしまいます。
一方で、遅れが出始めた初期段階で早めにオーバーホールを行うと、パーツ交換に至らない場合も非常に多いのです。結果として、大切な時計の寿命を延ばしメンテナンスコストを抑えることにもつながります。
オメガやロレックスといった一生ものの時計だからこそ小さな変化に気づいてあげることが大切です。「以前より遅れるな」と感じたらそろそろオーバーホールの時期であることをぜひ頭の片隅に入れていただければ幸いです。

